眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

(供養)最後の彼女とのデート4回目

最後の彼女との4回目のデート。今日で告白するつもりでいて、でもどういったシチュエーションで告白をするかまでは決められなかった。場所が場所だったので、告白に適した落ち着いた場所を見つけられなかった。それでも、今日、告白する。

 

 

待ち合わせの1時間前に着いて、施設内をのんびり歩く。最後に来たのが5年前くらいで、店がだいぶ増えていて、ここならウィンドウショッピングをしても充実した時間が過ごせるだろうと思った。徐々にデート時間が近づく。本屋さんで待ち合わせをしていたので、最近出た漫画を眺めていたら彼女からLINEが来た。

 

「そろそろ着きます!」
「私もそろそろ着きます!」

 

待ち合わせ時刻になっても彼女は現れなかった。私は「漫画のあたりにいますね」とLINEを送った。数分後、「ちょっと迷ってしまって。すいません」と彼女からLINEが来たので、「本をのんびり見てるので。ゆっくりでいいですよ」と返した。その数分後に彼女は現れた。はあはあと呼吸を荒くしながら、それでも彼女は可愛かった。

 

「迷ってしまって。3階だと思っていたら、4階を彷徨っていました。すいません」

 

そういうことだったのだ。数分しか遅れていないのに、私はちょっと苛立っていて、そんな性格を直さないといけないなと思った。

 

 

お昼ご飯をどこで食べるかは決めていなかった。その場で一緒に決めようというコンセプトだった。時刻は12時30分過ぎ。どのお店もたくさんの行列が出来ていて、コロナ禍でも外出する人は外出するんだな、その一人に私も含まれるんだよな、としみじみ思った。「蕎麦のお店がありますね。ここにしませんか」と彼女が提案してくれたお店にした。彼女はそのお店の違う店舗に行ったことがあるので、味は折り紙付きだった。待っている客は1組しかいなかった。待っている間、他愛のない話をした。私は子ども舌なので山葵とか辛い物が食べられないんですよ。別にそれらを食べられなくてもいいんじゃない。子ども舌ではないんじゃないの。他には何を話したのかちょっと忘れてしまっていた。今回のデートの一番のイベントである「告白」のことが既に頭を過っていて、それが私の思考を鈍らせていた。緊張、それは意識しだすと止まらなくなるので、彼女の、マスクでいちぶぶんが隠されている顔を眺めていて、ああ、可愛いな、とそんなことをぼんやり思っていた。待ち始めて10分後に順番が来て、4人掛けの席に案内された。外は絶好調で雨が降っていた。風が強いようで、降雨の流れはだいぶ乱れていた。一緒にメニューを眺め、私と彼女は同じ蕎麦を注文した。私は普通盛りだと足りないだろうと思い、大盛りを注文した。200円高くなった。蕎麦が運ばれてくるまでの10分弱、それと蕎麦が運ばれてからもたくさんのお話をした。前もって準備してきた話題はなくて、彼女が提案してくれた話題に興じたり、ふっと思いついたことを口に出していた。私が大学生の時に演劇部に入っていたことに対して彼女は興味深そうだった。「〇〇さんが演劇部に入っていたなんて、意外です」それはどういった意味での意外なのか、詳しくは訊けなかった。他には大学で勉強していたこととか、高校のときの勉強は大変でしたねだとか、本当に他愛のない話題ばかりだった。多少は恋愛の要素がある話題を出したほうが良かったのかもしれない、そうしたほうが彼女が私の事を意識してくれるのかもしれない、と思ったが、他愛のない話題を話しているだけで私は幸せだったので、無理矢理恋愛要素の入った話題は差し込まなかった。あっという間に蕎麦を食べ終えて、外で待っている人がいたので、「そろそろ行きますか」ということで、会計を済ませて外に出た。

 

「今回は払いますよ。あと、これは今日の水族館のチケットのぶんです」

 

と、昼食代と水族館のチケット代をすっと渡してくれる彼女、金銭関係でこういう風にしっかりしているというか、奢られるのが当たり前だ、という雰囲気を出していないから、彼女の事が好きになったのだろう。他にもたくさんの魅力で彼女のことを好きになったのだけれど。「いやいや、別に気にしなくてもいいのに」と言ったけれど、彼女は頑として自分の意見を押し通した。素敵です。

 

 

水族館の入館時間までまだ余裕があったので、ぶらぶらとウィンドウショッピングをした。たくさんの人がいるところで、彼女と一緒に歩くのは多少の注意を必要とした。手を繋いでいれば歩きやすいんだろうけれど、付き合っていないのでそんなことをしたら「チャラい男」と思われそうで、だから繋ぎたい気持ちをぐっと堪えて歩き続けた。たくさんのお店を見て、それぞれに可愛らしい反応を見せている彼女を見ているだけで、私は幸せな気持ちになれた。あっという間に時間が過ぎて、水族館へ向かおうということになった。一瞬だけ、外に出る瞬間があったのだけれど、あまりの風の強さに吹き飛ばされてしまいそうになった。よかった、屋内の施設でのデートにして。本当に良かった。と胸を撫で下ろしながら、水族館に入る前に、ベンチがあったのでそこでちょっと休憩をして、それから水族館に入った。

 

 

水族館はたくさんの人でごったがしていた。緊急事態宣言はなんのそのの人ばかりで、でも私もその一人だった。たくさんの生物がそこでは息をしていて、それを彼女と一緒に見ている時間は至福過ぎて鼻血を吹き出しそうになった。生物を一緒に見ているとき、人が多いせいでどうしても彼女との距離が近くなり、肩と肩が触れ合うくらいの距離で、私はどきどきして呼吸をするのを忘れてしまいそうになった。こんなことでこんなにもどきどきしていたら、告白なんて出来るのでしょうか、と自分で自分に問いかけた。ペンギンがいたり、くらげがいたり、見てて飽きることはなかった。ただ、体はくたくただった。朝、ドーピング剤のつもりで強めの栄養ドリンクを飲んできたけれど、普段の運動不足のせいで、そこまで動いていないのにくったくたになっていた。このままの調子で疲れてしまったら気分がぐちゃぐちゃになってしまう。早く水族館を出てお茶をしよう、座ろう椅子に、という気分だったけれど、見るべき生き物はまだまだたくさんいた。途中、ガチャガチャを見つけて、一緒にガチャガチャを回すことになった。じゃんけんをして勝ったほうが先にガチャガチャを回そうということになり、私がじゃんけんに勝って先に回した。私はらっこが出て、彼女はくらげが出た。彼女はクリオネをいたく気に入っていて、でもくらげも好きなようだったので嬉しそうな顔をしていた。私は「らっこかー、まんぼうがよかったな」とぼんやりした頭でぼおっと思った。全部で50分くらい水族館に滞在して、早くお茶を飲もう喉が渇いた、と思ったが、お土産エリアも彼女には魅力的だそうで、いろんなグッズを見てああだこうだとお話をした。幸せだった。ようやく水族館を抜け出し、お茶をのもー、となって、幾つかのお店を見て回ったが、どこも人でごった返していた。この施設でお茶をするのは多分不可能だろう、それならば数駅先のところでお茶をしませんか、という話になって、電車に乗ることになった。一度、乗る線を間違えて、改札の中に入ってしまったけれど外に出れるのか、ということになったが、びーーーーっと警告音が鳴ることなく改札の外に出ることが出来た。

 

 

電車に乗っているとき、「そういえば〇〇ちゃんと電車に乗るのは初めてだよね」とふと思って、それをそのまま口に出した。「確かに、そうですよね」と彼女が返事をした。15時過ぎの電車はひどく静かだった。

 

 

数駅先の駅に着き、記憶を辿りながら進んでみたが思っていた場所ではなく、でも目の前には喫茶店、チェーン店の喫茶店があった。チェーン店の喫茶店では彼女は満足しないのではないか、と思ったが、「ここにしましょう」と彼女が言ってくれたので、そこでお茶をすることにした。私は喉が渇きすぎているのと、疲れでどうにかなりそうだった。

 

 

注文した飲み物が出て来て、2階に上がった。場所が場所だったせいか、客はほとんどおらず、隣にぐだぐだしているカップルがいる以外は、おじさんがイヤホンで何某かを聴いていた。私と彼女は椅子に座って一段落し、各々の飲み物をぐびぐびと飲みながら、ここでもいろんなお話をした。コロナのせいで去年はボーナスが減ってしまったよ、年次が一つ上がると給料は上がるんですけれど微々たるものですよ、去年は地方税がなかったので今年はちょっとしんどかったです、まだ30年以上も働かなくてはいけないなんてちょっと信じられないですよね。そんなことを話し、「そういえばお子さんの制作物があって。こんな感じなんですけれど」と、スマホに保存されている制作物の写真を見せて楽しそうに話す彼女、本当に子どもが好きなんだろうなということがひしひしと伝わって来て、自分の子どもが出来たらきっとすごく可愛がるんだろうな、私もそんな彼女の傍で一緒に子どもを可愛がりたいな、とささやかながら思っていた。こんな妄想は贅沢かな?30分ほどで彼女は飲み物を飲み干して、で、私も慌ててアイスティーを飲み干して、お互いの飲み物が無くなったのに喫茶店に居続けるのも微妙だったので、店を出ることになった。ええっと、告白はどのタイミングですればいいんだ?

 

 

私と彼女は駅に続く地下道を歩く。やばい、このままだと彼女とあと数分でお別れしてしまう。今日はもう告白できないのか。でも今日しなかったら、彼女も「今回で告白してこなかったから、もうないんだろうな」と思うかもしれない。どうしたものかどうしたものか、と私は分かりやすいくらいに慌てていた。それでも無情にも駅は近づいてきた。運が良かったのは、私と彼女は同じ電車に乗るということだった。改札を抜けて、で、既に来ていた電車を見送って、で、次の電車が来た。そこのホームは人が少なかった。よし。決心した私は勇気をふるって彼女に言った。

 

「あの、ちょっと、いいかな?」

 

「?」と分かり易く疑問符を浮かべている彼女。私は彼女をベンチへと誘い、座った。彼女は私の左隣に座っていた。電車が通り過ぎ、ホームに人がいなくなったタイミングで彼女に切り出した。

 

「えっと。これまで4回のデートをして。それとLINEでたくさんのやり取りをして。◯◯さんといるととても居心地が良いな、落ち着くな、という印象があって。◯◯さんのことが好きになりました。これからたくさんの時間、◯◯さんと一緒に過ごせたらいいなと思っています。付き合ってください」

 

彼女の顔をしっかりと見つめて、ゆっくりと、聞き取りやすいように多少大きめの声で話した。「好きになりました」辺りで、彼女の目元が涙ぐんでいたのは気のせいだろうか。彼女が返事をしたのはすぐだった。

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

何度も何度も想像したその光景が現実のものとなって、私は告白が受け止められた安心感と、これからも彼女と楽しい時間を過ごせることが出来るという幸せで、涙が零れそうになって、でもここで泣いたら男じゃない、と自分に言い聞かせてぐっと堪えた。電車が既に来ていたので、「乗りましょう」と彼女が促してくれて、電車に乗ることになった。

 

「いきなりびっくりしましたよ。体調でも悪くなったのかと心配でしたよ」

 

と、私の突然の行動に彼女はびっくりしていた。私は安心感から来る形容のし難い感情を抱いていた。そこから、彼女の雰囲気はくだけた感じになり、敬語はやめてもいいですか?、お互いの呼び方はどうしましょうか?、次の土曜日はお仕事で、来週の火曜日が休みなので、来週の月曜日のお仕事が終わった後に会いませんか?ということになった。彼女はスマホのカレンダーを見せてくれて、「◯◯さんとのデートの日は、このマークを使っていたんです」と言った。どこで食べようかという話になり、◯◯さんは新宿が嫌いだもんね、と私が言うと、新宿は人混みが酷いので嫌いです、と言っていた。彼女と一緒にたかはしのらーめんを食べることはおそらくないだろう。そもそも彼女はラーメンを好きだろうか。でもデートでラーメンはさすがにないか。そんなことをぼんやり思いながらわいわいしてたら彼女の家の最寄駅で、お店がいくつかあるのでそこで夕飯を食べましょうということになった。私は彼女の家の最寄駅に一度も降りたことがなかったので、とても楽しみだった。仲がどんどん深まっていったら、お互いの家に泊まったらするのだろうか、それはそれは幸せなことだな、と思っていたら彼女が降りる駅に着いた。ギリギリまで彼女は座っていて、電車の扉が開いたらそっと立ち上がった。「じゃあね」とばいばいをする彼女、私もばいばいを返す。電車を抜け出し、電車が動き出す。彼女が振り返って、ばいばいをする。私もばいばいを返す。彼女の姿が見えなくなって、疲れがどばっと溢れ出しそうになった私は急いでイヤホンを耳に差し込んだ。

 

 

ぽわぽわした気分で電車に乗って、乗り換えて、また電車に乗って、乗り換えて、電車が来るのを待っている間、マカロニえんぴつの「hope」を聴いていて、ちょうど「hope」が流れていて、今まで何十回も聴いていたのに、今更になって曲が心の奥の方までぐさぐさと入ってくる感じ、私はこれから恋愛をするのだ、ということが現実のものと思われて、ああ、幸せだなあ、幸せだなあとそれだけを思った。私はこれから、もっと幸せになるのだ。