眠たげな猫の傍で

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世界の果てで眠っていたいな

(供養)最後の彼女とのデート3回目

最後の彼女との、3回目のデート。安心感しかない。2回のデートと、LINEでのやり取りはもはや阿吽の呼吸と呼んでも差し支えないほどに意気投合してて、3回目のデートで告白してもいいのではないか、と考えてしまう節があった。だが、2回のデートの合計時間は4時間だし、今日は彼女が15時に電車に乗って実家に帰る、ということだったので、今回はまだ告白するタイミングではないと判断した。

 

 

待ち合わせ場所に待ち合わせ時刻の30分前に着いて、ゆっくりと時が来るのを待つ。今日は候補のお店が二つあり、一つは待ち合わせ場所のビルの上層階にあるお店。もう一つはビルから5分ほど歩いたところにあるお店。雨が降っていたのでビルの中にあるお店の方がいいかなと思ったが、ビルの中のお店は人でごった返していて、カウンターしか予約が取れない状況だったので、もう一つのお店の予約をネットで済ました。刻一刻と待ち合わせ時間が近づいてくると、どきどきが徐々に強まっていく。今日話す話題を再確認して、呼吸を整える。大丈夫、3回目のデートなんだから相手は私に好意を持ってくれているはずだから、こちらが身構えていても仕方がないじゃないか。と思っても、好きな女性とのデートはどうしても緊張してしまうものである。待ち合わせ時間の5分前になっても彼女から連絡はなく、「あれ?」と思う。その2分後に、「〇〇に着きました。〇〇さんはどこにいらっしゃいますか?」と彼女からLINEが届き、「私もそこにいます。どのあたりにいますか」と即座に返す。辺りを見回して、彼女の存在を確認し、ほっとする。ああ、今日も最後の彼女に会うことが出来た。そして今から楽しい楽しいデートが始まるのだ。彼女も私の存在を確認したのか、笑顔でこちらへと近づいてくる。

 

「どうも、こんにちは」
「こんにちは」

 

と簡単に挨拶を済ませ、外に出てお店へと足を運ぶ。

 

 

道中から既に私と彼女の世界が構築されていた。せっかくのデートなのに雨が降ってしまって残念です、でもそこまでひどい雨じゃなくてよかった。今日は職場でイベントがあるんですよ、雨だから可哀想です。今日のお寿司の為に、お魚を食べるのを我慢しました。好きなものを食べると決めたら、その日まではそれを食べるのを我慢すると、好きなものがより美味しく感じられるんですよ。今日のお寿司はとても美味しいので、期待してもいいですよ。私はご飯ならなんでも美味しく感じるので、大丈夫ですよ。この辺はコロナ前はたくさんのお店があってそれぞれが繁盛していたのに、今は閑古鳥が鳴いてしまっていて寂しさを感じます。そんなことを話していたらお店に着いた。30分前にネットで予約を済ませておいたので、お店に着いたタイミングで私たちの番が来て、3分ほどお店の前で待機していたらすっと入店できた。テーブル席に着いて一安心。隣に椅子があるので上着はそこにかければいいのだけれど、彼女が、

 

「こちらに上着を置きましょうか?」

 

と聞いてくれる何気ない優しさに、疲れていた身体がふっと軽くなる。彼女の何気ない優しさはデートをしている間ずっと傍にいて、ずっと優しいと疲れないかな?と不安になってしまう。優しくない人間はそういう風に考えてしまうけれど、根っこから優しい人間は自分が優しいということに気付いていないのかもしれない。

 

 

お寿司はたくさんの種類があって、どれを食べようどれを食べよう、と選ぶのが楽しいと思っていて、でも彼女は「板前のおすすめ握り」をすぐに頼み、その潔さも大切にしたいな、と思った。私はいつものセット+いつもの単品を頼んだ。注文してお寿司が運ばれるまでの時間、多分30分くらいあったんだろうけれど、彼女とお話をしていたらあっという間に過ぎていった。話題は主に彼女の仕事の話。先日、新年度の体制に関する発表があり、彼女が懸念していたことは払拭されたそうで、とても嬉しそうに話していた。でも、同期の子は不安な体制に組み込まれることになって、その日の仕事が終わった後、駅前で2時間ほどお話をして、その子が泣いているのが本当に辛かった、と話してくれた。お仕事に関するたくさんの話をして、今日聞かせてくれたのはどちらかというと負の側面、愚痴の要素が強かったけれど、彼女の丁寧な言葉遣いと表現のおかげで、聞いていても全然不快にならなかったし、もっと話してすっきりしてほしかった。仕事の悩みという、どちらかというと自分の奥深くに潜んでいることを自分からたくさん話してくれたのは、私に心を開いてくれている証拠なのかな?

 

 

お仕事の話以外には、漫画の話で盛り上がった。彼女には3つ上のお兄さんがいて、そのお兄さんの影響で少年ジャンプに掲載されている漫画をよく読んでいて、大好きな漫画の話になり、「ドラゴンボール、めっちゃ好きです!」と微笑みながら話している彼女を見て、ぐっと強い握手をしたくなった。ドラゴンボールを好きな理由、ドラゴンボールを読んでいたことで起きたエピソードなどをたくさん話してくれて、「ドラゴンボール好きの女の子に悪い子はいない」と確信を持った。他にもたくさんの漫画を読んでいたけれど、引越しを機にそのほとんどを捨ててしまったそうだ。「思い切りが強いというか。『もういらない』と思ったものは躊躇することなく捨ててしまうんです」と言う彼女、もし私が恋人になって、私の存在がいらないと認定されたらぽいっと捨てられてしまうのだろうかと考えてみて、なに馬鹿なことを考えているんだろう、と馬鹿げたことを考えていた。他にもお寿司の話とか、ゲームの話とか、どちらかというと彼女がぽっと提供してくれる話題に二人がわいわいやっている感じが圧倒的安心感を私に与えてくれた。沈黙の時間がほとんど存在しない、常にどちらかが楽しそうに話していて、聞いているほうもそれを楽しそうに聞いている、笑顔の空間が私たちの間で広がっていて、(ずっとこの幸せが続いてくれたら、どれほど素敵なことでしょう)とぼんやり考えていた。

 

 

彼女が頼んだ「板前のおすすめ握り」が先に運ばれて、どうぞどうぞと一頻りはしゃぎ、一巻ずつ彼女がお寿司の美味しさをレポートしてくれる姿がとにかく可愛かった。

 

「これはなんだろう。う~ん、はまちかな。とても分厚い。頂きますね。......あ~、すっごく美味しい。もう幸せ」

 

とお寿司を頬張るたびに笑顔になっている彼女を見て、今日のデートという存在がこの世にあってくれて本当に良かった、可愛い女の子が笑顔で美味しいものをもぐもぐと食べている姿は正義である、そこには幸せしか漂っていないんだよな、と惚れ惚れしていた。どれだけ私は彼女の魅力を見つけられることが出来るだろうか。

 

 

私の分のお寿司もようやく運ばれて、お寿司をつまんでお話、お寿司をつまんでまたお話をした。ずっと楽しかった。話題が途切れることはないし、お寿司の美味しさは絶品だった。このお店を知っていて本当に良かった、お兄ちゃんありがとう、と心の中で囁きながら、彼女の幸せそうな笑顔をずっと見ていたかった。

 

 

ご飯を食べ始めてから1時間30分が過ぎ、お互いに全てのお寿司を食べてしまったので、あとはこのまま彼女と駅でお別れしてしまうのか、もうちょっと、もうちょっと彼女とお話していたいな、と思った私は、

 

「もしよかったら、このあとにお茶でもしませんか?」

 

と言ってみた。

 

「もちろん。行きましょう!」

 

と笑顔で返してくれる彼女は天使だった。

 

 

お会計は、まあ、その、お財布には申し訳ないが、ちょっと辛抱してもらうことになった。会計を済ますと、彼女がこちらを見つめてくるので、

 

「いいですよ。楽しい時間を過ごせたのですから」

 

と返し、次の目的地である喫茶店へ向かう。ただ、どこの喫茶店に行くのが良いのか見当がついていなかった。お寿司の後のお茶を考えていなかった、過去の私を恨んだ。でも、この間ちらっとネットで見かけたあのお店はどうなんだろうか。思い切ってそこに行ってみると、時間が時間だったが運良く席が空いていたのですっと入店できた。ふかふかのソファに座って一段落したところで、メニュー表を見ながらわちゃわちゃする時間、29歳でも体験できるのかと嬉しくなった。彼女は珈琲が苦手なので紅茶を頼み、私はアイスカフェラテを頼んだ。ふと彼女を見ると、じいっとパフェを眺めていた。

 

「食べたいの?」
「でも実家に帰ったらたくさんの御馳走が用意されているだろうし、お寿司も食べたから、我慢しないと」
「いいよいいよ、せっかく食べられる機会があるんだから食べようよ」
「でも......。そうですね、〇〇さんがそう言ってくれるなら食べます。〇〇さんは何を食べますか?」
「僕は特に大丈夫かな」
「えー、それは不公平ですよ。う~ん、それじゃ二人でこれを分け合いっこしませんか?
「えっ......。うん、そうしようか」

 

と息絶え絶えになりそうになりながら、なんとか返事を出来た。パフェをシェアできるほどの間柄になっていたの、彼女は私とパフェをシェアすることに躊躇はないの、本当に良いの?とどきどきしていると、

 

「ちょっとお手洗いに行ってきます」

 

と颯爽と彼女は席を立った。もう30歳に足を突っ込んでいるおじさんが、こんなことでどきどきしてるなんて、私はどれだけうぶなんだろうかと思うと同時に、もうここまで来てしまっているなら彼女は確実に私を好意を持っている。告白してOKを貰えるんじゃないか、という妄想が本格的に始まる前に彼女がお手洗いから戻ってきたので、妄想は立ち消えになった。そのあともお寿司屋さんのお話の延長線上で会話を続けた。誕生日プレゼントととしてお兄ちゃんからSwitchを貰い、友達とわいわいゲームをしている時間がとても幸せなんです、そうそう今度このゲームが映画化されるんですよ、だからカレンダーにも、ほら、こうやってメモしてるんです。紅茶、美味しいなあ。と、他愛のない会話でも、彼女と話をしているとただただ身体が蕩けてくる幸せな時間で、これはもう今告白してもいいのではないか、と錯覚を起こしそうになったがすんでのところで自我を抑えることが出来た。次回だ、次回のデートで雰囲気のいいシチュエーションで、もごもごしないではっきりと彼女に自分の気持ちを伝えよう。そうしよう。と自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻した。

 

 

茶店でも沈黙が訪れることはなく、主に彼女の方から嬉しそうに話してくれて、それに私も乗っかって二人でわいわいする形になった。いつまでも話し続けられそうな雰囲気が漂っていた。でも彼女はそろそろ実家に帰らないといけないのだろう。楽しい時間は今日はここまで、と思って彼女にそろそろ行きますかと声を掛けて、ちょっとお手洗いに行ってきます、と言って席を立ったのでその隙にお会計を済ませた。ごめんな、財布よ。あとちょっとの辛抱なんだよ。だからここは耐えてくれ、と財布に語りかける。彼女が戻ってきて、店を出るとたくさんの人が並んでいて、絶妙なタイミングで店に入れたことに感謝した。

 

 

店の外に出ると、

 

「またご馳走になってしまうのは申し訳ないです。もし◯◯さんのお誕生日が近かったら、お誕生日プレゼントでお返し出来るのに」

 

と残念そうにしている彼女はまるで天使だった。私は典型的な、「恋は盲目」を地で行く男だった。

 

 

そのあとに彼女が実家に持っていくお土産を一緒に買って、駅へと向かった。今日はとても楽しかったな、次回のデートもこれなら確実だろうな、どこに行こうか、どうしようか、と悩みながら徐々にお別れの時間が近づいていた。今回はデートが終わってからのLINEでデートのお誘いをするのがもどかしかったので、改札に着く前に彼女に言った。

 

「◯◯さんって、来週の土日は空いてる?もしよかったらまた会いたいなと思ってて。次回はお茶やごはんだけじゃなくて、遊びの要素もあればいいなと思っているんだけど」

「それなら時期も時期ですし、お花見とかいいかもしれないですね!」

 

 

と嬉しそうに話す彼女を見て、次回も確実にデートは存在するだろうことを確信した。但し、来週の土日はどちらも今のところ雨の予報なので、神様に天気が良い方向へ向かうことを毎日祈らなければならない。それか、雨が降るようだったら水族館とか、屋内で遊べるところに行くのもいいかもしれない。家に帰ったらネットで情報を収集しないといけないな。

 

 

同じ改札を潜り抜けて、反対の電車にお互いが乗ることとなった。お別れの際、今日のデートがとても楽しかったこと、来週の日曜日にまた会えることがとても楽しみであることを彼女に伝えた。来週の日曜日、楽しみですねと彼女は言った。ばいばいを互いにして、私が電車に乗って振り返ると私の事を見てくれていた。ばいばいをすると、ばいばいを返してくれた。電車の扉が閉まり、私は充足感に包まれていた。

 

 

スマホの電源は切れていて、すぐに彼女にお礼のLINEを送ることは出来なかった。2時間後に家に着き、すぐにスマホを充電した。復活したスマホの電源をつけると、彼女からLINEが届いていた。

 

「今日も御馳走になってしまいすいません。お寿司、とても美味しかったです!気を付けてお帰りくださいね」

 

というLINEに、次のお誘いのLINE、何時から遊べそうですかという文言を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女からその日のうちにLINEは届かなかった。多分寝たんだろう、うん。そうだ、そうに違いない。疲れたよね、半日くらいたくさん話したし、そのあとに実家に帰ったんだから、疲れたんだろうね。それかあれかな、家族とのお話に夢中になって、スマホを触っていないんだろうね。そうだ、きっとそうに違いない。ということを考えて自分を落ち着かせて眠りについた。

 

 

次の朝、すぐにスマホを見たが彼女からLINEは来ていなかった。う~ん、これはいったいどういうことなんだろうか。まだスマホを触っていないのだろうか。もしかして......、という考えたくもない考えが頭に浮かんで、すぐにかき消した。あれだけ盛り上がっていたんだから、そんなことはない、そんなことはない、はず......。その日はだから、彼女からの返信をずっと待っているような感じになっていた。外は晴れていたので外に出て気分転換をした。家に帰って来て、疲れたので寝た。起きたら外は暗くなっていた。スマホの画面を立ち上げると、彼女からLINEが届いていた!!!!!そこには「来週の日曜日は他に予定がないので、何時からでも大丈夫ですよ!」ということが書かれていて、私は(まだ繋がっていた)と安心した。

 

 

次回のデートで告白をする。雨が降るかもしれないので、お花見をする案と、屋内で遊ぶ案の二つを考えて、それぞれどこでお昼ご飯を食べるのか、どこでお茶をするのか、どこでどのように遊ぶのか、そしてどういったシチュエーションで告白をするのか。1週間足らずの時間でこれらを考えるのは楽しいし、もしうまくいかなかったら......、ということも考えてしまうので苦しい。でも、ここまで来たんだから告白をするのだ。どんなゴールが私を待ち受けているのか分からないけれど、どうかハッピーエンドが訪れることを全力で祈っている。次回のデートの前に、近所の神社に行って神様にお願いしておかないとな。あと1週間足らずで最後の彼女との恋が始まるのかどうかの答えが出るので、どきどきが止まりません。