眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

自尊心を削られる恋愛

彼女と久しぶりのデートをした。デートと言っても、彼女の家でただのんびりと時間を過ごすだけの、コロナ対策十分の平凡なデートだ。彼女に会うのは1ヶ月ぶりなので、1週間前からそわそわしていた。連絡は殆どしていないので、彼女が本当に私の彼女なのかどうかが怪しくなってて、会ったときに、「ドッキリでーす。あなたと私は付き合ってませーん」と種明かしされても、「そうだよね。安心した」と思ってしまうだろう。

 

 

彼女は私が思っている10倍以上にさっぱりとした性格の女の子だ。そういう風に思ってしまうのは、私がウェットな人間の証左なのかもしれない。昨日、久しぶりの電話をする機会に恵まれた。「シャワーを浴びて、髪を乾かしたら電話するね」と18時過ぎに連絡が来て、ワクワクして待っていた。20時を過ぎても彼女から連絡は来なかった。タチの悪い悪戯だったのかな、と思っていた21時過ぎ、「ごめん、遅くなって。(私)さんのタイミングの良いときに連絡して」と連絡がきた。呼吸を整えてから彼女に電話をかける。8コール目、もう出ないかと思われたときに彼女が出た。「もしもし。あれ。おはよう」と彼女は寝ぼけていた。私は1時間くらい電話をするつもりだったが、何発も欠伸をかまされたので、早々に電話を切ることになった。その時点で、「なんでこんな恋愛を続けているんだろう」という思いが再び浮き上がってきて、腑に落ちない気分で身体中が満たされた。いや、このエピソードは彼女のさっぱりした性格を表すものではなく、ただ仕事が大変で、仕事が終わって家に着いたら最低限のことをしてすぐに寝てしまうだけのエピソードか。

 

 

今日のデートは彼女の家で過ごすことになった。そうしたいと彼女が決めた。2週間前の電話では、「サウナに行きたい。◯◯駅の近くにあるサウナに行こう」と急きたてられ、まあそこでも別に良いけれど、サウナだと一緒にいられる時間が少ないから、1ヶ月ぶりのデートには適していないんじゃないかな、と軽い不満を抱いていた。朝、スマホを開くと、「今日やっぱり雨だね。私の家で過ごそう」という連絡が来ていた。それはそれでいいんだけれど、なんだろう、違和を感じながら、「昼過ぎに行くね」と返した。付き合い始めて1ヶ月が過ぎた辺りから感じ始めていた違和が、徐々に強くなってきていた。

 

 

昼過ぎに彼女の家に着いて、ダラダラと時間を過ごした。1ヶ月ぶりに会ったので、私は彼女とたくさんお話をしよう、したい、と思っていた。彼女の部屋にはリアルタイムのテレビが流れていて、その音が多少鬱陶しく感じられた。お土産に持ってきたスイーツを、彼女は美味しそうに食べてくれた。「これ、全部私が食べていいの?ありがとう、やったー」と嬉しそうに彼女がそう言ってくれたのは素直に嬉しかった。軽く世間話から始めて、それから深い話をしよう、と悠長に構えていられなかった。私は2時間後に彼女の家を出なければならなくて、どうでもいい話で貴重な時間を無駄にしている場合ではなかった。彼女の性格の根っこのぶぶんとか、私が前々から知りたかった彼女のことを中心に質問をしてみた。「これを言ってしまうと私、面倒な女だと思われてしまうかもしれないけれど」という前置きをしてから、性格の根っこのぶぶんとか、あとは訊いてもいないのに家族のことを話してくれた。それらは非常に興味深い内容で、久しぶりのデートでこんな貴重な話を聞けて私は満足してしまった。誰も見ていないテレビは依然として点いていて、そっと電源を落とした。すると彼女に、「(私)さんは、テレビとか点いているとダメな感じ?」と聞かれた。ダメではない。実家ではほぼ常にテレビが点いていた。でも、せっかく久しぶりに会えたのだから、私は彼女が発する音だけを聴いていたかった。テレビのくだらない音で、彼女の話を聞き漏らすことがあったら悲しくなると思い込んでいた。「う〜ん、いや、誰も見ていないのにテレビが点いているのは勿体無いかなと思って」と誤魔化して、本音は言わなかった。「私はながらがいいから、点けるね」と言って、彼女はテレビを点けた。そこでひとつ、私は悲しさと切なさ、やり場のない怒りを抱えて、家を飛び出したくなった。自分が神経質なだけ、自分が神経質なだけで、テレビを見ながら人と話すことは普通のことだろ、なあ、と自分に言い聞かせて、一瞬で生じた複雑な感情を無理やり押し込んだ。

 

 

最初の方はきちんと話をしてくれていた彼女は、次第にテレビの方に集中するようになった。私の考えが間違っているのかもしれない、と思うようになった。家で人と話す際は、テレビを点いているのが普通のことなんだと自分に言い聞かせた。でもなあ、たくさんの時間を過ごして、それでたまにそういう感じになるのならいいんだけれど、まだ付き合って間もなくて、1ヶ月ぶりのデートでそれをされると、私は嫌だと思う。それは嘘偽りのない、私の考えだった。

 

 

久しぶりに彼女の顔を見ながらお話しできる時間はとても幸せで、ずっとこの幸せな時間が続けばいいのになと思った。でもそんな幸せな時間はいつまでも続かなかった。テレビをふいに消した彼女は、ベッドに座りながらゲームを始めた。ピコピコ、とやけに陽気な音がゲーム機から流れ出して、彼女はゲームに夢中になっていた。私はあと30分で彼女の家を出ないといけなかった。次いつ会えるか分からないから、もっと彼女と話したかった。でも、彼女は真剣な面持ちでゲームと向き合っていて、声をかけるのが躊躇われた。でもずっとこの状態でいるのは嫌だったので、いやらしい雰囲気が出ないように注意して、何気ない感じで彼女の隣に座った。「どんなゲームしてるの?」と軽い調子で彼女に声をかけると、「◯◯だよ。イベントがあるんだけれど、平日に全然できていなかったから、今のうちにしておこうかなと思って」そこから、どのように話を膨らせればいいのか分からなかった。話の上手い人だったら、そこから面白い話を展開できるのかもしれないけれど、人とのコミュニケーションをサボりがちな私は、ゲームから面白い話を展開できる自信がなかった。「面白い?」と質問するくらいしかできなかった。自分のあまりの無力さに、胸が痛くなったし、もっとコミュニケーションが上手く取れていたら、彼女は私ともっと会話をしてくれていたのかもしれないな、とマイナスなことを考え始めていた。彼女が突然ゲームを始めたのは、貴重な休日、いつまでも彼氏の退屈な話に付き合っているのが勿体無いと思ったからなのかな。そういうことをストレートに伝えないのは彼女の優しさだろうか。半殺しだよ、そんな状態。いっそのこと、一刺しでトドメを刺してくれないか。不満があるんだったら言葉で表現してほしい。改善できるぶぶんがあったら積極的に改善するし、改善が難しかったらその旨を伝える。自分が不満に思っていることを言葉ではなく、態度で示されても分かりづらい。私が想像していることはてんで的外れで、ただ単にゲームがしたくなっただけなのかもしれない。分からない。これはいったいなんなんだろうか?

 

 

彼女の家を出なければいけない時間になったので、それを彼女に伝える。私たちはまだ、次にいつ会うのかの話をしていなかった。その話はいつも私から切り出していて、それがなんだか癪に触るというか、私ばかり会いたい会いたいってなんだかちょっと恥ずかしいというか、嫌だなと思っていて、だから彼女が最後の最後にそれを切り出してくれると期待していた。「じゃあね、ばいばーい」と言う簡単な挨拶で、私と彼女は別れた。次にいつ会うのかの約束をすることなく、私は曇天の下、くたくたに折り畳まれた心を必死に鼓舞しながら駅へと向かった。

 

 

電車に乗っている時、無性に悲しくなった。さっきの時間はいったい何だったんだろう。ぼーっとした頭はいつまで経ってもぼーっとしていて、私はもう、この恋に終止符を打った方がいいのかもしれないと思った。彼女は私に対して嫌悪感は抱いていないかもしれないけれど、好意も抱いていないのかもしれない。告白されて、まあ付き合うかと軽い気持ちで付き合い始めたのかもしれない。辛い。付き合って3ヶ月が経つのにこんなにも切ない悲しい気持ちを抱えていることが辛過ぎて、こんな辛い思いをするくらいだったら、いっそのこと潔く、彼女と別れた方が私の幸せになるのではないかとまで考えた。分からない。別れたら別れたで、私はきっと後悔するだろう。だって、こんな時間になってもまだ彼女のことを考えてて、今日のデートのことを思い返して温かい気持ちになってて、彼女は本当に素敵な子で、そんな子と別れるのはあまりにも悲しい事だから。ずっと彼女と、笑顔で一緒にいられたらいいのに、と思うのに、どうしていつまでも辛い思いを抱いていないといけないのかなと思うと、頭の中がぐちゃぐちゃになって、冷静に物事を考えられなくなる。どうしたらいいんだろう。寂しい、もっとあなたと一緒にいたい。別れる前に、それを伝えて、そんなの知らない、あなたの感情はあなたで処理してよ、と言われたら、きっぱりこの恋に別れを告げよう。中途半端な状態を続けるのが一番ダメだ。でもこんなことを言うなんて、私が楽になりたいだけで、我儘過ぎるんじゃないかなと思って、もうどうしたらいいのか分からなくなってしまう。

 

 

どうしたらいいんだろう?