眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

明美さんとのデート

bigpopmonster.hatenadiary.jp

 

今回のデートを通じて分かったのは、「私は人間とのコミュニケーションを必要としていない人間なのかもしれない」ということだった。デート相手の明美さんはぽんぽんと話題を提供してくれたので、私はその話題を軸にして話を展開していけばいいだけなので心理的負担は少なかったが、多分分かり合えないだろう人間との会話ほど虚無なものはなかった。旅行の事、京都でどこに行くことが多いのか、遊び、どんな場所で遊ぶことが多いのか。そういうことを私は知りたいのではなく、「どうしてそこに行きたいと思うのかそこで遊びたいと思うのか、そこに行くこと遊ぶことでどのような感情を抱くのか」ということを知りたいだけだった。

 

 

前日のLINEで「早く着いたら先にお店に入っていますね」という言葉があったけれど、いざ当日になり約束の30分前に「もうお店の中にいます。急がなくてもいいですからね」というのは軽い暴力だった。早目に着くのは10歩譲るとして、私が着いたときにお茶を半分も飲んでいるのはなかなかな体験だった。痺れる、と思いながら席に着き、写真の明美さんと実際の明美さんとの差異にまた痺れた。

 

「実際に見てどうですか。写真と違いますか」

 

と訊かれ、ここで正直に応えるのは角が立つので、

 

「写真の10倍増しで綺麗ですね」

 

と思ってもいないことを言って、家に帰って十分に後悔した。こういうことを繰り返していって自分のなかにまだ残っている大事なぶぶんが擦り減っていくのだと思う。本当は、(写真では和装でむっちゃ清楚な感じがしたけれど、服装もメイクもむっちゃけばいじゃん)と思ったし、それを「貴重な経験」と思えるほど私は純粋無垢な人間ではなかった。

 

 

話題は、今日の天気、仕事、旅行、遊びと無難な話題が続いて、(どこかで流れを変えないと)と思っている矢先に、

 

「アプリで会うのは何人目ですか」

 

というどストレートな話題が来て、それは素直で良いなと思った。アプリを使っていることに抵抗を抱いていないこと、そういったぶぶんは過去会った2人とは違って、そういうことを初対面の相手に話してくれるのは優しさだと思った。もちろんこんな質問に真面目に応える必要はないので、

 

明美さんが初めてのお相手です」

 

と無垢な表情で言い放った。そのあとに、

 

「私は10人以上も会っているんですよ」

 

と言うところ、最後に付き合っていた恋人とは相手の仕事が忙しくてすれ違いが多くて社会人一年目で別れてしまったこと、それをメッセージのやり取りをしているマッチングアプリの住人に伝えたら即座に相手が退会したこと。そういうことを何の衒いもなく話してくれる明美さんは素直で良い子なのだと思った。そういうぶぶんは素敵だな、と思った。

 

 

会って5分で明美さんに対する興味を失ってしまった要因は、声が低かったことと、妙に達観しているところと、全然キャピキャピしておらず、まるでベテランのお笑い芸人のように落ち着き払っているところだった。私より年上の女性にキャピキャピを求めるのはお門違いだし、家に帰ってよくよく考えてみたら私はキャピキャピした女性は好みではなかった。キャピキャピは一種のアピールで、好きな男の前で可愛い女の子でいたいという思いを具現化したものだし、それがいつまでも続くことは私にとっては地獄を意味していた。だからキャピキャピしていなかったのは別にどうでもよかったのだけれど、妙に達観しているのはちょっと嫌だった。例えば、一緒に映画を観たとして、感想合戦になったときにずっと達観していられたら多分嫌だろうなと思う、それは私の発言で吃驚してほしいという承認欲求の裏返しであり、承認欲求くらい他人から求めようとするな、自分一人で完結しておけよということでもある。

 

「とても真面目で良いのに、彼女がいないなんて、なんでなんですか」

 

とストレートに訊いてくるところもいいと思った。途中から、初対面で初々しいところを見せようという気分が無くなって、突っ込んだことを私から訊いて、それに素直に応えてくれるのは良いと思った。でも達観しているところだけはどうしても頂けなかった。明美さんとの会話を経て、私は年上女性の包容力ではなく、年下女性の経験不足な感じ、それを年上の私が補っていくというのが好みなのだろうか、ということに気付いた。気持ち悪い考えだけれど、そういうことを考えられたのは良かった。

 

 

具体的な会話の感じは、まず明美さんが話題を提示し、それに私が共感してちょっと話題の軸をずらして明美さんに質問する、それに明美さんが応えるところにすかさず共感する、そしてまた話題の軸をずらして......、というのをやっていた。尋問のようにならないように気を付けていたが、普段の会話ではそんなことを意識していないので、話していてとても違和感があった。けれどそれで話がすいすいと進んでいったので、先人の教えは正しいのだと思った。思ったのだけれど、テクニックに頼って話していると自分の本当のところを教えるのが億劫になって、テクニックばかり気にしているのが嫌だった。途中でそんな会話をしている自分に気持ち悪さを感じた。そういった流れで会話したほうが自然なんだろうけれど、まるで機械になったかのような気分だった。例え話が盛り上がらなくても、人間のままでコミュニケーションを取りたいと思った。

 

 

明美さんは私の見解に対して額の皺を寄せることなく受け入れてくれるので、うっかりしたら調子に乗って自分の事をぺらぺら話してしまいそうで怖かった。お酒の話題になって、明美さんはあまりお酒を飲まないと言っていたけれど、営業時代に週6で飲みがあったことを不快に思っておらず、自宅で何本かお気に入りの日本酒を常備しているそうで、それはもう立派な呑兵衛じゃんと思った。お酒の場面で、本当はお酒に強いのに「大好きなお酒はカシスオレンジです」というような女性に比べて好印象を抱いた。「お酒、強いでしょ?」と聞いても、「いえ、あまり強くないですよ」と頑なに応えるところは可愛かった。

 

 

恋愛の話が無性にしたくなって、恋バナで盛り上がりたいという中途半端な欲求に衝き動かされて「理想のタイプはありますか」とストレートに聞いた。「たくさん話をしてくれる人。お父さんがとにかくお喋りで、ずっとべらべら喋っているから、こうしていました(左耳から右耳へ話が通り過ぎていくポーズを取る)」というの、自分の考えを初対面の、どこの馬の骨か分からないような男に話してくれるの、とても良かった。私は予め考えていた考えを話した。「穏やかな人。感情の起伏が激しい人だと一緒にいて疲れそう。どんなときも穏やかでのんびりとしているような女性がタイプです」と言うと、「確かに〇〇さんは穏やかですもんね。そういう女性が合っていますよ」と返してくれた。そのあとに付き合ってどれぐらいで結婚したいのか、という話もしたかったが、時間がオーバーしていた。

 

「ここにはよく来るんです。でも値段が高いから、見ているだけで満足するの」

 

という話を聞きたかったんだよな、と思えたので、最後の最後で、明美さんと会って良かったなと思えた。電車は別々だったので途中の所で解散となったが、試しに手を振ってバイバイしてみたら、明美さんもバイバイを返してくれて、そういうところが良いな、もしかしたら私の会話の仕方が下手くそで、もっと上手に話していたら明美さんの素敵なぶぶんがたくさん見つかって、明美さんに対して恋心を抱いたのかもしれないな、と安直に考えた。

 

 

解散してすぐに明美さんにLINEを送り、これでもう明美さんに会うことはないだろうという気持ちで改札へと向かった。ちょっと経ってから明美さんから返信が来た。

 

「私もとても楽しかったです。ありがとうございました。
もし良ければまたお会い出来れば、と。嫌だったら返信スルーで構いませんので」

 

という文言で、あんな下手くそな話しか出来なかったのに好印象を持ってくれた明美さんは本当に素敵な人だし、素敵な男性に巡り合えれば良いのにな、と思った次第です。まだ返信はどうするか保留中です。