眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

読書は楽しい

金子薫「壺中に天あり獣あり」(2019)を読み終えてしまった。なんとも幸せな読書体験であった。無限世界で生き続ける主人公が見つけ出す有限の世界。そこで紡がれる、小説でしか表現しえない狂おしいほどにたまらない世界。一文一文読みほしていくたびに、渇いていないと思い込んでいた喉がみるみるうちに潤っていく様はなんとも愉快で、いつまでもこの読書が続けばいい、と何度思ったことか。起承転結という物語の根幹に囚われることなく、縦横無尽に飛び跳ねる蝶のようにいつまでもその飛翔を眺めていたい、なんだこれは。特別な文章で書かれているわけではないのに、数ページも読み進めるうちに心は陶然としていき、まるで「読むドラッグ」と化していく様は大変に素晴らしい。最近の読書は現実に根付いたものばかりを読んでいたので、超現実(この表現が正しいかわからないが、考え着いた表現のなかでいちばんしっくりきた)じみた世界観を眺めているのは刺激的で痛快である。私が特にたまらなく気持ちよいと感じたのは無限の世界で「ホテル」という有限の世界を発見し、そこでじっぶんなりの創意工夫を施し、「ここで生きることに集中すれば、無限という途方もない恐怖から逃れられる」と有限実行していく主人公の様である。そもそも無限世界という設定がついつい涎が出てしまうほどに大好きな舞台設定なので、そこを思う存分生かしているこの小説はよくできており、その完成度の高さについつい怯んでしまう。こんな小説を読んでしまったら、今まで何の疑問も持たず読んできた小説に対して不満を持ってしまうのではないか。そんな現実に目覚めてしまうのであれば、この小説に出会わなければよかったのかもしれない。そんなことを考えながら、金子薫のほかの作品を読むことを楽しみにしている自分がいる。早く読みたい、一気に読みたい。けれど現時点で発表している作品は4作しかないので、丁寧にゆっくりと読んでいこう。楽しみが減ってしまう前に。