眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

家具<仕事編>

会社に来るまでが私の仕事である。意味の分からないほど大群の人間に挟まれながら進む電車、そのなかで「今日も仕事を...」というとりとめのないことを考え、小1時間ほどで会社の最寄りの駅へ着く。そこからとことこ歩いて、すっかり生気を失った私は12Fにある自分の会社まで会談で歩く。エレベータが昨年の春からぶっ壊れているのだ。そうして汗を体中から噴き出させてようやく辿り着いた会社の扉を開ける。誰もいない。そりゃそうだ、始業まであと2時間もあるのだから。私がこんなにも早く会社に来ているのは入社時のトラウマからである。始業の30分前に会社に着いた私に対し、会社の猿は「仕事を舐めているのか」と毅然とした態度で言い放った。その時の周りの人間の頷く姿、猿の嬉しそうにしている感じを思い出し、二度とそんな状況を作らせまい、という経緯でこんなにも早く会社に来ている。もうここまで早く来る必要はないのだけれど。あのとき私のことを罵った猿は無事に保護されて老人ホームでぬくぬくやっているし、周りにいた人間の大方は駆逐され、新しい構成員が配置されているから。でもいつ何時猿が現れるかもしれないという不安で、今日も早く来てしまった。早く来ても何もすることはないのだけれど。ぎりぎりに来たところで仕事に支障は来さないのだけれど。始業のチャイムが鳴って、構成員が俄かに色めき立ち、職場の喧騒に包まれながら、私は家具になる。ときどきお茶をすする家具。仕事は入社して数カ月で振られなくなった。理由は未だ持って分からない。「猿に一度楯突いた」ことが一番の原因だと思っているけれど、誰もそのことで私を詰ってきたことはなった。何もすることがない。目の前のパソコンを触ることも許されない。あまりにもやることがないので先輩社員に「お手伝いできる仕事はありますか?」と何度も訊く。「そんなのない」「あったらこっちから指示する」「勝手に席を離れるな」「座ってろ」それらの発言をしっかりと体になじませ、私は自席に戻り、またお茶を啜り始める。お茶を啜ることは先輩社員から推奨されていないけれど、他にすることがないから、という理由で今のところは目をつぶってもらっている。なんじゃそりゃ。仕事をしないのに会社に来るってどういうこと?動くことすらままならない状況って、異常じゃないか?そんなことを考えていた時期もありました。しかし、そのような日々が日常になってくると、「仕事を始めた頃はこいうった感じなのだろうか」と勝手に考えてしまっている。でももう入社して年が経つんだけれど、いつまで家具状態を保っていなければいけないのだろうか。いつまで先輩の目を気にしてじっとしていなければならないのだろうか。私は会社で家具になるために生まれてきたわけじゃない。本当はしたいことだってたくさんあるんだ。それらを我慢してまで、この会社で家具になりきる必要はないんじゃないか?そんな悩みを先輩社員に相談しても、「家具はどうしても家具だからな」と言われるだけ。意味が分からないけれど、理解した風を装う。正直生きている意味が分からないんですけれど。