眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

美沙

美沙と一緒にいるとき、出来の悪い映画を何回も観させられているような気分になった。不満があるとき、一度愚痴を吐いただけでは気が済まないようで、まるで呪文を唱えるかのように同じことを繰り返し呟き続けた。それに対してうんうんと適切に頷くことが私がいつも取ってしまう行動で、美沙から離れた時にいつもこのことでぐるぐる悩んだ。「何度も同じことをうるさいよ」と彼女に怒ってみせたら気が晴れただろうか。美沙と付き合い始めた頃、同じ場面に遭遇して、軽く注意をしたら彼女の形相が一変した。普通に暮らしていたら聞くことはないであろう罵詈雑言を小1時間聞く羽目になり、今後はどんなことを言われようとも我慢しようと決意した。でも、ふと冷静になったときに、「自分を殺してまで付き合うものだろうか」という疑問がもたげるようになった。恋人に不満を持っているけれど友達はそれなりにいたけれど、彼らの愚痴は私のそれに比べたらおままごとみたいなものだった。そんな友達を羨ましがると同時に、私は美沙と別れることを決心した。こんな関係をいつまでも続けていたら、私にとっても美沙にとってもいけないような気がした。あくる日のデートの途中、おしゃれな喫茶店でカフェラテを飲んでいるときに、私は美沙に別れを切り出した。「もう君と付き合い続けることはできそうにないや」それまで上機嫌に自分の趣味のことを話し続けていた彼女の形相が一変し、まるで鬼のようになった。「なぜそんな悲しいことを言うのだ」口調すらも普段の彼女とは違い、まるで本物の鬼と対峙しているかのような錯覚に陥った。「今のような関係を続けていてどちらのためにもならないと思うんだ」そう言い切って席を外し、喫茶店の扉を開けようとしたとき、脚に鈍い感触を覚え、気づいたら意識を失っていた。どれだけ眠っていたのだろうか。ふと目が覚めると真っ白な部屋に自分が寝そべっていることに気が付き、なぜここにいるのかが分からなくて動転した。部屋には何もなく、ただ静寂だけが取り残されていた。私は美沙の名前を呼んだが、返ってくるのは頭が痛くなるくらいの無音で。それからどれくらいの時間が経っただろか。このまま私はここに居続けるのであろうか。急に不安になった私は、美沙に許しを請うた。「ごめん美沙。僕が悪かった。君の寂しさに気づいてあげられず、君の愛に気づいてあげられず、一方的な言動を取ってしまった。本当にすみません。もう一度君とやり直したい。お願いだから、僕の話を少しだけでも聞いてくれないか」そんな趣旨のことを何度も何度も叫んだ。すると不意に眩暈がして、気づいたら先程の喫茶店にいた。「あらどうしたの、顔色が悪いわよ」と心配そうに見つめてくる美沙が目の前にいた。時計を見ると意識を失う前からほとんど時間が経っていなかった。先程から飲んでいるカフェラテは錆の味ばかりがいやに強く、どうにも気持ち悪い。ん、錆?そう思ったと同時に、目の前にいる美沙は砂が風に舞うかの如くきれぎれと霧散していき、後には私と椅子だけが残ってしまった。こんな状況でも、あんなにも嫌っていた美沙のことを思って苦しくなっている私がいた。