眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

私のラジオ

電池の切れかかったラジオから私の声が聞こえてくる。声の幼い雰囲気から鑑みるに、おそらく5歳前後だろう。どうしてラジオから私の声が流れてくるのか分からない。壊れていたラジオを先週、古ぼけた電器屋で修理してもらったから毎日のように私の声が流れてくる。30歳くらいの私が話すときもあれば、今日みたいに幼い私が話しているときもある。話している内容は大体同じで、どこそこのあのこが好きで好きでしょうがないという色恋沙汰ばかり。確かに惚れやすい私ではあるが、誰かに向かって恋の悩みを打ち明けた記憶は無い。どうしてこいつは悩みをぺらぺらと話せるのだろう。ラジオの外にいる私は未だに恋人が出来たことがなくて、そのくせ好きな人はいつだっていて、でもその人に話しかけることなんて出来ずにうじうじ悩むどうしようもない生き物である。こんな私だからこそ、ラジオの中の私には恋愛で幸せになってほしいと思う。ただ、スピーカーに話しかけても私の声はラジオの私には届いていないようで、えんえんと恋愛の愚痴を零す私の声を聞いているのは苦しくなってくる。「もうそんな恋は忘れてしまえよ」と怒鳴りつけたくなるけれど、ラジオの中の自分に伝わらないのなら無駄だ。

 

今日は駄目だった。大好きで大好きでしようがないあの子が噂のあいつと歩いているのを街の雑踏で見つけてしまった。それから自分でもドン引きするくらいに落ち込んでしまって、どうすればこの苦しみから解放されるのか、私はもう誰も好きになりたくないのに、と思う。家に帰ってラジオをつけると、件の私が話していた。そのあどけない声は必死で、自分の好きな人が自分を好きであったらどれだけいいだろう、と聞いてるこちらも苦しくなるほどに悩んでいる。その子を救ってあげたいと思うけれど、自分のことで精一杯で、その子に掛ける言葉すら考えようとしない自分が嫌になる。どうせなら誰かに好かれる人生を送りたかった。