眠たげな猫の傍で

眠たげな猫の傍で

世界の果てで眠っていたいな

手紙

一枚の手紙に翻弄された一生だった。その手紙には特別なことが書かれているわけでもないのに。誰が書いたか分からないその手紙は、高校生の時、私の机の中に入っていた。同級生の悪戯かな、と思ったそれは淡々と私のこれからのことが書いてあって、衝撃的なことが書かれているわけではなかった。そこに書かれていることは必ず起きた。例外はない。悲しいことも嬉しいことも、当たり前の顔をしてやって来ては通り過ぎていった。立ち止まっているのは私だけ。私の横をたくさんの人が通り過ぎていくだけ。そんな手紙、読み終える前に破り捨ててしまえばよかったんだ。自分の未来なんて知りたくなかった。それが明るかろうが暗かろうが。どうしてもその手紙に書かれていたことは私の記憶から抜け落ちることはなく、年々その存在感は増していった。最初は手紙に書かれていることが現実に起こると妙な高揚感で包まれたが、それが当たり前になってくると気持ち悪く、そして退屈が訪れた。結末を知ってしまった物語をなぞることに何の意味があるだろうか。どうして自分の元に手紙が届いたのか、そればかりを考えた時期もあった。もしかしたらみんなの元にも同じように手紙が届いているんじゃないかと思った時期もあった。でも確かめることは出来なかった。「他人に話すべからず」と手紙の最後に書かれていたことを忠実に守り続けて来た私は、所詮退屈さえも厭わないつまらない人間なのだ。明日起きることが分かっていながら、明日の用意をして、いつもの時間に眠るなんて馬鹿みたい。そんな馬鹿みたいな日々を繰り返してきた私が馬鹿かどうかなんて、もうどうでもいい。今日はあと少しで終わる。余計なことは考えない。ただ時間が過ぎていくのをじっと見守るだけのいきものでいさえすればいい。そうすれば、私の心までは奪われないのだから。